2025東京インターナショナルオーディオショウレポート ― AVアンプ編
「2025東京インターナショナルオーディオショウ(TIAS 2025)」レポート:デノンのAVアンプ設計を長く手掛ける高橋佑規氏による試聴企画「フラッグシップAVアンプは15年でどれだけ進化したのか:A1HD vs A1H」の模様をお届けします。
2025年の東京インターナショナルオーディオショーでは、趣向を変えてブランドごとでの展示ではなく、Hi-Fiオーディオデモルーム(G510)とホームシアターデモルーム(G701)の2会場構成で出展しました。今回は7階・ホームシアターデモルームで行われたAVアンプ比較セッションをレポートします。
比較の主役は、デノンのフラッグシップの証である「A1」を冠する新旧2機種。
まずは、「AVC-A1H」。15.4chプロセッシング出力に対応する現在のフラッグシップモデルで、2008年の「AVC-A1HD」以来15年ぶりに“A1ネームド”を名乗るにふさわしい、現在のデノンの粋を集約したモデルです。
対する「AVC-A1HD」は7chパワー(150W×7ch/8Ω、THX Ultra2準拠)、HDサラウンド回路「DDSC-HD」、HDMI 1.3a(入力6/出力2)、そして「Advanced AL24 Multi Channel」による高精度な音場再現を実現し、2008年当時のAVアンプ界で金字塔を打ち立てたモデル。本セッションでは、同一コンテンツ/同一条件でこの新旧両モデルを聴き比べ、設計思想と再生能力の“15年の進化”を、音で検証してみます。
AVアンプフラッグシップモデルは15年でどこまで進化したのか。
ここからは「AVC-A1HD VS AVC-A1H|AVアンプフラッグシップモデルは15年でどこまで進化したのか。」のレポートをお送りします。プレゼンターはデノンのAVアンプ設計に長らく関わってきた高橋佑規、と営業企画室 田中清崇が務めました。
田中:「みなさんこんにちは。今日はホームシアターデモルームで、15年前のデノンのフラッグシップAVアンプである「AVC-A1HD」と、現行フラッグシップモデル「AVC-A1H」を同一条件で聴き比べたいと思います。本日は両機の開発に携わったエンジニア、高橋 佑規が解説します。
高橋:デノンでAVアンプの設計を担当している高橋 佑規です。2001年に入社し、業務機器、Hi-Fiの設計・開発を経て、AVC-3890(2004年)の頃からAVアンプの開発にも関わり、「AVC-A1HD」ではアナログオーディオ系からパワーアンプ段、DAC周りの回路設計まで担当しました。今日は2008年に発売された「AVC-A1HD」と2023年に発売された「AVC-A1H」、その間の15年で積み上げた音の違いを実際に聴いてみていただきたいと思います。

エンジニア 高橋佑規
ロスレス対応コンテンツでAVアンプの15年間の音の進化を確認
田中:では、どれから試聴しましょうか。
高橋:まずは「Legends of Jazz Showcase」から聴いてみましょう。これは当時の「ロスレス対応」を象徴するディスクでした。今日は7chフロアスピーカーのみで、ベースのマーカス・ミラーのトラックを使って低域の音質を比較してみたいと思います。まずは古いほう、「AVC-A1HD」からいきましょう。サラウンドフォーマットはDolby TrueHDで試聴します。
高橋:ドラマーはビニー・カリウタ、キーボードはジョージ・デューク、ギターはリー・リトナーと、フュージョン界のスーパースターたちの演奏が素晴らしい演奏ですが、AVC-A1HDで再生すると、ベースの量感と押しが濃密です。この「密度」に、当時設計としてもロスレス・マルチ再生の時代が来たと強く感じたことを思い出します。では次は、「AVC-A1H」で同じコンテンツを同一条件で再生したいと思います。
高橋:いかがでしょうか。「AVC-A1H」で再生すると、沈み込みながら抜ける低域、音場のモヤが退いてコンテンツへ素直に入れる感じがしますね。音を端的に表現するならば、「AVC-A1HD」は「濃密」なのに対して、「AVC-A1H」は見通しとスピードが前に出ていると言えると思います。
ちなみに「AVC-A1HD」が発売された2007年はHDMI 1.3が登場し、各社がDolby TrueHD/DTS-HD MAに本格対応してフラッグシップモデルを投入した年でした。その後リーマンショックを経て市場は縮小していきましたが、2014年にDolby Atmosが到来して、さらに多チャンネル化が進んで行きました。
2008年のA1HD時代には、バックパネルの半分以上がアナログ映像端子でした。当時まだ未知であったHDMIのノイズに備えて、段間バッファを重ねた信号経路で“ガード”していました。その結果が音の濃蜜さにもつながっていると思います。一方でAVC-A1Hは、ストレートな経路でDSPからパワーへ情報を削らずに信号をそのまま伝送するという思想で設計されています。それが見通しのよい音にも出ているのではないでしょうか。
「静」の音で、15年間の音の奥行や密度の表現の進化を確認
田中:次は映画をご覧いただきます。“何も鳴っていないようで鳴っている”静けさを描く名シーンで比較します。「9」という映画です。こちらも「AVC-A1HD」と「AVC-A1H」で、同一条件で聴き比べていただきます。
映画「9 ナイン ~9番目の奇妙な人形~」
高橋:無音ではない静けさ――空気に浮かぶ“気配の粒”が崩れず、情景が音で組み上がる。これはロスレスの真骨頂です。「AVC-A1HD」もいい表現でしたが、「AVC-A1H」では静の密度がさらに上がり、奥行きの深さ、視線が自然にスクリーンに吸い込まれていきます。
ライブ映像でA1HDとA1Hの設計思想の違いを確認
高橋:3本目は私の携行リファレンス。LAのNokia Theatreで収録されたジョン・メイヤーの「John Mayer “Where the Light Is」というコンサートライブのソフトです。このライブはアコースティック、トリオ、そしてフルバンドと編成が展開してとても素晴らしい演奏が楽しめます。今日は1stのアコースティックから聴いていただきます。
(AVC-A1HD、AVC-A1Hで再生)
高橋:いかがだったでしょうか。ホールの空気が素直に立ち、ギターの胴鳴り、そしてライブならではの客席での反射が場として整っています。「AVC-A1HD」には音の厚みの魅力があり、「AVC-A1H」は素材の良さをそのまま出す方向の表現でした。そうした設計思想の違いが分かりやすい一曲です。
デノンのAVアンプの特別なモデルだけが冠する「A」
高橋:まず、「A」のモデルは物量が他のモデルと桁違いで、重量でいえば「AVC-A1HD」が約28kg、そして「AVC-A1H」が約32kgです。そして、チャンネル数ですが、「AVC-A1HD」は7ch、「AVC-A1H」にいたっては15ch、これは一体型としてはかなり稀です。また、デジタルプロセッシングも「AVC-A1HD」の当時は24bitの Advanced AL24 processingでしたが、そして「AVC-A1H」はAL32 Processing Multi-Channelと、高精度処理で多チャンネルを余裕で処理できるようになりました。
15年前にデモをしていたディスクをA1HDとA1Hで聴き比べて、最後に音の進化を改めて確認
田中:さて、お時間もなくなってきましたので、締めは2009年前後のディスクから。デモで“かけまくった”一曲を、もう一度。「AYAKA MTV Unplugged」から三日月です。
高橋:ボーカルの吐息が前に出過ぎず、壁に触れた響きの“空気の跳ね返る”様子まで見えます。信号経路また、電源・グランドの最適化が、余韻の濁りを掃いてより純度の高い再生を実現します。
田中:ということでお時間となりました。「AVC-A1HD」と「AVC-A1H」、15年前のフラッグシップと今のフラッグシップ、違いははっきり伝わったと思います。
高橋:私たちは音楽も映画もオーディオも大好きです。アンプは作品を楽しむための道具。そのために技術を前に進める。今日お聴きいただいた差は、わたしたちのそういった積み重ねの結果です。これからも最高のサウンドと映像をお届けしたいと考えています。本日は、ご来場をありがとうございました。

ということで、レポートはここまで。今回の比較試聴で特に印象的だったのは、15年という歳月が培った進化でした。名機AVC-A1HDが持つ「濃密な熱量」も色褪せない素晴らしいものでしたが、最新のAVC-A1Hの「付帯音のない静寂」や「圧倒的な見通しの良さ」は、まさに現代のフラッグシップにふさわしいサウンド。15年間の技術の積み重ねが、没入感を新次元へと引き上げたことを実感するセッションとなりました。というわけで、2026年もまた、TIASのデノンブースでお会いしましょう。
(編集部I)
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