新時代のワイヤレス・ストリーミング・アンプ「Denon Home Amp」開発者インタビュー
デノンの洗練されたコンパクトデザインとHi-Fiの高音質を実現した新時代のワイヤレス・ストリーミング・アンプ「Denon Home Amp」。デノンオフィシャルブログではその開発者のひとり、GPD Product Leads 冨田洋輔にインタビューしました。
デザインコンセプトである「枯山水」、「香箱」のイメージをいかに具現化するかに注力
●Denon Home Ampの開発に関わった冨田さんにお話をうかがいます。冨田さんはこのDenon Home Ampの開発ではどの部分を担当されたのでしょうか。
冨田:主に機構設計を担当しました。内部構造や外装部品、さらにパッケージなどの設計も手掛けています。今から4〜5年ほど前に最初のDenon HomeシリーズであるDenon Home150やDenon Home 250の機構を担当したという背景もあってDenon Home Ampの開発にも参加しました。
またこの仕事の直前ではRCD-N12という、やはりリビングに置くオーディオの設計も担当していました。ですからリビングに置くようなオーディオ、ライフスタイルオーディオと呼んでいますが、そのような製品開発に多く関わってきたことになります。

GPD Product Leads 冨田洋輔

Denon Home Amp
●Denon Home Ampのデザインコンセプトについてお聞かせください。
冨田:Denon Home Ampは日常生活に調和するライフスタイルオーディオとして設計されました。ライフスタイルオーディオの製品開発で大事な点は、インダストリアルデザイナーのコンセプトをいかに妥協なく仕上げていくかというところだと思っています。Denon Home Ampでは特にそれが重要だと考えました。Denon Home Ampのインダストリアルデザインは今回アメリカのデザイナーが行いましたが、彼のアイディアには「枯山水」、「茶器」、「香箱(こうばこ)」といった日本の伝統的な要素がたくさん入っていました。こうしたイメージは日本のクラフトマンシップ、100年以上続くデノンの「ものづくりの精神」を表現したものです。そのコンセプトシートを受け取り、私としてはそのイメージをできるだけ具現化して製品づくりに生かしたいと考えました。

Denon Home Amp発表会資料より
●Denon Home Ampはデザイン要素が最小限で、ほとんど装飾がありませんね。ここまでシンプルなデザインは珍しいと思います。
冨田:私自身も、かなり思い切ったデザインだなと思います。このようなデザインはミニマルであるがゆえに細部にまで神経を使うデザインで、具体的な製品作りとしてはかなり難しかったですね。
それともう一点のDenon Home Ampの特長がコンパクトだということです。サイズは、フルサイズのオーディオ機器の半分程度のハーフラックサイズです。そのようなコンパクトサイズであっても、サウンドとしてはデノンのHi-Fiオーディオグレードを実現することを目指しました。そのため内部構造や部品の配置には今までにないような工夫が必要でした。ミニマルデザイン、コンパクトサイズ、そしてHi-Fiサウンド、この3つを同時に実現するのは、かなりのチャレンジでした。

顕微鏡で細部まで満足のいく仕上がりを目指した
波紋をイメージさせる天板
●デザインでは特に天板の仕上がりが美しいですね。天板のデザインには苦労があったのでしょうか。
冨田:おっしゃるとおり、天板はDenon Home Ampのデザインで最も重要な部分です。このプロセスにかなりのコストと時間をかけています。通常の製品デザインではモックアップを制作して形状を確認しますが、量産とは異なり削り出しの一点もので制作することが多々あります。また、モックアップを作らずに、3Dプリンターを使って形状だけ見ることもあります。でもDenon Home Ampは実際に天板に光が当たった時の光の反射や印影を見たかったので、量産部品を製造するメーカーで実際に金型を作成して試作を行いました。それによって金属の光沢や反射など、細かいディテールまで再現でき、満足のいく仕上がりとなりました。

Denon Home Amp発表会資料より

●天板の金型を作って試作を行ったことで、良かった点を具体的に教えてください。
冨田:天板の細かいメッシュの仕上がりの検討が行えた点です。製品に近い工程を経ることで細かい仕上げまで検討でき、それを量産部品に反映することができました。たとえば穴については試作部品を顕微鏡で拡大して確認したところ「穴のエッジがちょっとダレる(穴のエッジがすこし丸く見えるという意味)」とコメントが付きました。板の断面図でご説明すると、デザイナーの意図としてはここをシャープにしたいと。だけど、実際に出来上がった試作ではエッジのシャープさが綺麗に出ていませんでした。

冨田が描いた穴のエッジのイメージ。上の図が目指しているまっすぐな穴の断面、下の図が試作段階の穴の断面で、エッジが丸いことを示している
●その穴を穿つ時に、少し丸みが出るわけですよね。
冨田:私も最初はそう思ったのですが、実はそうではなくて、顕微鏡で見たり、塗装を剥がしてみたりして解析して検証したところ塗膜の厚みが原因でした。穴を開けた後にその上から塗装をしているのですけど、塗膜が厚いせいでエッジが丸くなっていということがわかりました。実際の製造時と同様の工程に沿ってモックアップを作っていたおかげでゴールが明確になっており、そこにむけて迷いなく進めたことでたどり着けました。そこで塗装の厚さを緻密に調整してみたところ、やっぱり印象が違うんですよ。スパッとシャープな穴になって、非常に洗練された仕上がりになりました。
●トップパネルの穴を顕微鏡で確認して、塗装の厚さを調整することで穴がくっきりしたということですか。
冨田:そうですね。本当に細かいことですが、あれだけたくさんの穴があると、その一つ一つがちょっと変わるだけでも集合体としての印象が変わるんです。最終的にはミクロンオーダーの調整をしています。
ハーフラックサイズのコンパクトさとHi-Fiの高音質を両立するモノブロック・インナー・ストラクチャー
●ハーフラックサイズのコンパクトさとHi-Fiの高音質を両立するためには、どんな工夫をしたのですか。
冨田:内部構造を三重構造のブロック・インナー・ストラクチャーとすることでパーツを実装するスペースを稼ぎました。Denon Home Ampの内部構造は、従来のフルサイズコンポーネントとは大きく異なります。内部には4mm厚のアルミプレートが使用されていて、これが基板を支えるフレームとなっています。そのフレームに基板を固定し、その基板をしっかりとプラスチックフレームで支えることで、安定した内部構造を実現しました。また、底部のアルミプレートは熱を効率的に処理するヒートシンクとしても機能しています。

Denon Home Amp発表会資料より
●熱の処理は重要な課題だと思いますが、その点はどのように対処したのですか。
冨田:Denon Home Ampは定格出力125W+125W(4Ω)のハイパワーなアンプを搭載しているため、フルデジタルアンプではありますが電源からは大量の熱が発生します。そのため、ヒートシンクとして、底部のアルミプレートに直接発熱するパーツを接触させることで熱を逃がす設計にしました。これにより、限られたスペースで効率的に熱を処理できる構造になっています。また、内部の限られたスペースの中で、部品の高さや配置にも工夫を施しています。

Denon Home Ampの内部構造
Denon Home Ampの音質は
聴く人をハッとさせるアグレッシブな音
●Denon Home Ampの音質についてもお聞かせください。音の特徴について冨田さんはどう思いますか。
冨田: Denon Home Ampはコンパクトサイズながらデノンの試聴室にあるBowers & Wilkinsのフラッグシップスピーカー 801 D4をも駆動させることができるパワーを持っています。私も自宅でDenon Home Ampを使用してみました。都内の集合住宅なので大音量は出せませんが、さほど音量を大きくしなくても高出力だからこそ味わえる余裕のある豊かなサウンドを楽しんでいます。
サウンドの傾向としては、わりと攻めているというか、テンションが強いので家で聴いていても何度か「ハッ」とさせられる瞬間がありました。自宅には同じく私が担当したRCD-N12があって、同じくコンパクトで高音質な製品ですけどRCD-N12はどちらかというと落ち着きのあるサウンドだと感じます。Denon Home Ampはよりアグレッシブで、聴き手に積極的にアプローチしてくるような音質です。また試聴レベルでしか聴いていませんが、マランツの新製品として話題となっているMODEL M1はシルキーでジェントルな音質で、Denon Home Ampのアグレッシブでビビッドな広がりを感じられるサウンドとは好対照だと思います。このあたりはそれぞれのサウンドマスターの目指す音がよく表現されていて面白いと感じました。

●冨田さんはご自宅ではどんな感じでDenon Home Ampを使ったのですか。
冨田:HDMIでテレビと接続してAmazon Prime VideoやYouTubeを楽しんでいます。Denon Home Ampはテレビとの相性も良く、アプリで操作性できるのでとても使いやすいです。Denon Home Ampは、先日ファームウェアアップデートでRoon readyに対応したので、Roonを使ってPC内のハイレゾ音源を楽しむ時間が増えました。Roonは最近日本でのサービスを開始したQobuzとも連携できるので、ますます色々な音楽の聴き方ができるようになりました。

●Denon Home Ampが気になっているオーディオファンも多いと思います。最後に開発者としてメッセージをお願いします。
冨田:Denon Home Ampはリビングルームにマッチする上質なデザインとコンパクトさを実現していますが、そのサイズからは想像できないほどの高音質も両立しています。設置するスペースに制約があるけれどもしっかりとしたHi-Fiクオリティの音を楽しみたい方や、サブシステムとしてもう一つ何かを追加したい方にぜひ使っていただきたいです。またHEOSではスマホやタブレットからの再生や、マルチルーム再生など他のHEOS機器と組み合わせた使い方も楽しめます。ぜひ一度試してみていただきたいと思います。
●本日はありがとうございました。
(編集部I)